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東京地方裁判所 平成8年(ワ)23450号 判決 1999年8月27日

原告

株式会社ユニバーサルホーム

右代表者代表取締役

【A】

右訴訟代理人弁護士

今井一雄

石川英夫

被告

ユニヴァーサルハウス株式会社

右代表者代表取締役

【B】

右訴訟代理人弁護士

鶴田和雄

右訴訟復代理人弁護士

利根川雅一

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、「ユニヴァーサルハウス株式会社」の商号を使用してはならない。

二  被告は、甲府地方法務局石和出張所平成八年二月一四日受付をもってした被告の設立登記中、「ユニヴァーサルハウス株式会社」の商号の抹消登記手続をせよ。

三  被告は、別紙被告標章目録記載の標章(以下「被告標章」という。)及び「ユニヴァーサルハウス株式会社」の商号を、名刺、封筒、看板、旗、自動車車体、カタログ、チラシ、ポスター、モデルハウス、店舗の内外壁、その他の宣伝用物件に付してはならず、かつ、新聞広告、テレビ広告、インターネットのホームページ等の広告に使用してはならない。

四  被告は、被告標章及び「ユニヴァーサルハウス株式会社」の商号を付した名刺、封筒、カタログ、チラシ、ポスター、旗を廃棄し、看板、自動車車体、モデルハウス、店舗の内外壁、その他の宣伝用物件から、被告標章及び右商号を抹消せよ。

五  被告は、原告に対し、金三〇〇万円及びこれに対する平成九年一月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実等

1  原告は、「株式会社ユニバーサルホーム」を商号とし、住宅施工販売のフランチャイズ加盟店の募集及び指導育成等を目的とする会社であって、平成七年五月一日に設立された。

被告は、「ユニヴァーサルハウス株式会社」を商号とし、建築の企画、設計及び監理等を目的とする会社であって、平成八年二月一四日に設立された。

2  原告は、住宅施工販売のフランチャイズ加盟店である工務店を顧客として、住宅建築の企画を提供し、販売、設計、施工、施工の管理につき、技術や秘訣を教育指導し、住宅建築資材を販売することを主な営業内容としており、右商号又は「ユニバーサルホーム」の名称(以下、原告商号及び「ユニバーサルホーム」の名称をまとめて「原告社名」という。)及び別紙原告標章目録記載の標章(以下「原告標章」という。)を右営業活動及びその広告宣伝において使用している(弁論の全趣旨)。

また、原告は、別紙商標目録記載1ないし4の各商標権(以下、それぞれ「本件商標権1」、「本件商標権2」などといい、まとめて「本件商標権」という。)を有する。

3  被告の営業内容は、山梨県内において、一般消費者を顧客として、被告が企画した住宅を受注販売し、その際、被告が建物を設計し、施工又は施工の管理を行い、建築には被告の建築資材を使用するというものである。被告は、右営業活動において、被告商号及び被告標章を付した名刺、封筒、パンフレット、旗、看板を使用し、これらを付したチラシを頒布し、これらを使用した新聞広告を行っている。

4  原告社名と被告商号とは類似し(弁論の全趣旨)、また、原告標章と被告標章とは類似する。

二  本件は、原告が、被告による被告商号及び被告標章の使用は、①不正競争防止法二条一項一号又は二号の不正競争行為に当たる、②本件商標権の侵害に当たる、と主張して、同法三条(請求三項及び四項については選択的に商標法三六条)に基づき、被告商号の使用の差止め(請求一項)、被告商号の抹消登記手続(同二項)、被告商号及び被告標章の使用の差止め(同三項)並びに被告商号及び被告標章を付した名刺等の廃棄等(同四項)を求めるとともに、被告が右不正競争行為により平成八年三月から同年一〇月までの間に少なくとも三〇〇万円の利益を得て、原告に対し同額の損害を与えたと主張して、不正競争防止法四条に基づき、損害賠償として金三〇〇万円とこれに対する平成九年一月八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

第三争点及び当事者の主張

一  被告による被告商号及び被告標章の使用が不正競争防止法二条一項一号又は二号の不正競争行為に当たるか。

1  原告の主張

(一) 原告は、住宅建設業界の大手であるトステムグループのアイフルホームの経営方針をめぐる内部紛争に端を発して、同グループから事実上分離独立して設立された会社である。トステムグループ及びアイフルホームの名前は、全国的に一般消費者及び住宅関連業者に知られた著名なものであり、そのため、平成七年四月上旬に右内部紛争が起こった当初からマスコミによって原告設立に至る経緯、原告社名、原告代表者の動向・経営方針、原告の営業活動等が全国的に広く報道され、原告は、広告宣伝活動の一環として右報道のための取材活動に積極的に協力してきた。

また、原告は、新聞、雑誌、テレビ、ラジオ等のマスコミを通して全国的に広告宣伝活動を展開してきた。

これらにより、原告社名及び原告標章は、原告の設立当初から、原告の営業表示として著名であり、一般消費者及び住宅関連業者に広く知られていた。

右報道及び広告宣伝を掲載した新聞・雑誌等は山梨県内でも広く販売され、原告の広告は山梨県内でもテレビ・ラジオで放送されていることから、原告社名及び原告標章は、山梨県内でも、一般消費者及び住宅関連業者に広く知られていた。

(二) 被告は、広く知られた原告社名及び原告標章と類似する被告商号及び被告標章を使用して営業を行っているため、原告の営業と混同するおそれがある。

(三) したがって、被告が被告商号及び被告標章をその営業に使用する行為は、不正競争防止法二条一項一号又は二号の不正競争行為に当たる。

2  被告の主張

原告の主張を争う。

原告社名及び原告標章は、原告の営業表示として著名ではなく、また、被告が営業活動を行っている山梨県内の一般消費者及び住宅関連業者に広く知られていない。したがって、被告が被告商号及び被告標章を使用しても、原告の営業と混同を生じさせることはあり得ない。

二  被告による被告商号及び被告標章の使用が本件商標権の侵害となるか。

1  原告の主張

被告は、一般消費者を顧客として、被告が企画した住宅を受注販売し、その際、被告が建物を設計し、施工又は施工の管理を行い、建築には被告の建築資材を使用するという役務を提供しているが、右役務は、本件商標権1ないし3の各指定商品又は本件商標権4の指定役務に類似する。また、被告商号及び被告標章は、本件商標権の各登録商標に類似する。

したがって、被告が右役務について被告商号及び被告標章を使用する行為は、商標法三七条一号により、本件商標権を侵害するものとみなされる。

2  被告の主張

原告の主張を争う。

第四当裁判所の判断

一  争点一(不正競争行為の成否)について

1  前記第二の一の事実に証拠(甲一の一、甲二の一の1、2、二、三の1、2、四の1、五ないし一三、一五ないし四九、五四ないし五七、六〇なしい六二、六六ないし七三、七五、七七ないし八一、八三、八五ないし八七、八九ないし九三、九五ないし一〇二、一〇五ないし一〇八、一一〇、一一三、一一四、一一六ないし一一九、一二四ないし一二六、甲五の一ないし一〇、甲六の一ないし一二、甲七の一ないし一五、甲八の一ないし三五、甲九の一ないし一二、甲一〇の二、甲一一ないし二一、甲二二ないし二五の各一、二、甲二九の一ないし三、甲三六)と弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

(一) 原告は、住宅施工販売のフランチャイズ加盟店の募集及び指導育成等を目的として、原告代表者【A】(以下「【A】」という。)らが平成七年五月一日に設立した会社である。原告の主な営業内容は、地場工務店を原告の企画する木造住宅の施工販売のフランチャイズ加盟店として募集し、フランチャイズ加盟店となった地場工務店に対して、住宅建築の企画を提供し、住宅の販売、設計、施工、施工の管理につき、技術や秘訣を教育指導し、住宅建築資材を販売することである。

(二) 【A】は、原告の業務内容と同じく、地場工務店をフランチャイズ加盟店として、フランチャイズシステムにより低価格の木造住宅を施工販売することを主な業務とするアイフルホームテクノロジーの社長であったが、平成七年四月五日付けで同社の社長を退任し、その後間もなく同社と業務内容が競合する原告を設立したものであり、【A】がアイフルホームテクノロジーを急成長させた人物であったことや同人の社長退任が突然のことであったことなどから、同人の社長退任から原告の設立に至る経緯がマスコミに注目され、新聞、雑誌等で報道された。また、その後も、新聞、雑誌等に、原告に関する記事が掲載されている。

その主な記事の内容は次のとおりである。

(1) 平成七年四月、日本経済新聞、日経産業新聞に【A】の社長退任とその背景等に関する記事が掲載された(甲二の一の1、2)。

(2) 同年五、六月、日本経済新聞、日経産業新聞、日刊工業新聞、日本工業新聞、住宅新報、日刊ゲンダイに、原告設立の経緯とその営業が地場工務店を対象としたフランチャイズシステムによる木造住宅の施工販売であること等の記事が掲載された(甲二の二、三の1、2、四の1、五、一一、一二)。

(3) 同年八月、日本経済新聞(二回)、日経産業新聞、日刊工業新聞(二回)、日本工業新聞、住宅産業新聞、旬刊新聞「ザ・リフォーム」、日刊不動産経済通信(二回)、週刊住宅に、原告の業務内容や原告が企画した住宅等に関する記事が掲載された(甲二の一五、一六、一八ないし二四、二六、二七)。

(4) 同年九月、毎日新聞、日経産業新聞(二回)、日刊工業新聞(二回)、住宅産業新聞、日刊木材新聞(三回)、住宅新報、建材タイムス、日経テクノフロンティア、週刊住宅に、原告の加盟店募集の状況や業務内容等に関する記事が掲載された(甲二の二八ないし三〇、三四ないし四三、四五ないし四七)。

(5) 同年一〇月、日経産業新聞、日刊工業新聞(四回)、日刊木材新聞、日刊建設工業新聞、日本住宅新聞、住宅新報、ヤノ・レポート、月刊「住宅ジャーナル」、月刊「工務店経営」、月刊「住宅生活」に、原告の業務内容や原告が企画した住宅等に関する記事が掲載された(甲二の四四、四八、四九、五四ないし五七、六二、六六ないし七〇)。

(6) 同年一一月、毎日新聞、熊本日日新聞、日経産業新聞(二回)、日経流通新聞、日刊工業新聞、日刊木材新聞、日本住宅新聞、住宅新報(二回)、週刊東洋経済、月刊「住宅ジャーナル」に、原告の業務内容、加盟店の状況、原告が企画した住宅等に関する記事が掲載された(甲二の七一、七二、七五、七八、七九、八一、八三、八五ないし八七、八九、九一)。

(7) 同年一二月、日本経済新聞、日経産業新聞(二回)、日刊工業新聞、住宅産業新聞、月刊「ニューハウス」、月刊「ハウス&ホーム」に、原告の業務内容、加盟店の状況、原告が企画した住宅等に関する記事が掲載された(甲二の九二、九三、九七ないし一〇一、甲一〇の二)。

(8) 平成八年一月、日本経済新聞、日経産業新聞(三回)、日刊工業新聞、日刊木材新聞、日本住宅新聞、住宅産業新聞、住宅新報(二回)に、原告の業務内容や加盟店の状況等に関する記事が掲載された(甲二の一〇五ないし一〇八、一一〇、一一三ないし一一八)。

(9) 同年二月、日刊工業新聞、日刊木材新聞、日本工業新聞に、原告の業務内容、原告が企画した住宅、業績等に関する記事が掲載された(甲二の一一九、一二四、一二五)。

(10) 右各記事には、原告社名は記載されているが、原告標章は表示されていない。

(三) 原告は、新聞、雑誌で次のとおり広告を行った。

(1) 平成七年五月、日経産業新聞に、原告のフランチャイズ加盟店を募集する広告を掲載した(甲二の七)。

(2) 同年八月、日本経済新聞、日経金融新聞、日経産業新聞に、原告のフランチャイズ加盟店を募集する広告を原告標章を付して掲載した(甲二の一七、甲一三、一四)。

(3) 同年九月、住宅情報九州版に、原告のフランチャイズ加盟店を募集する広告を掲載した(甲二の二五)。

(4) 平成八年四月、日本経済新聞に、原告の広告を原告標章を付して掲載した(甲一二)。

(5) 平成九年九月、日本経済新聞に、原告の広告を原告標章を付して掲載した(甲一一)。

(四) 原告は、平成七年九月から平成八年二月の間に、次のとおり、全国各地の放送局のテレビ放送において、一五秒又は三〇秒のスポット広告を行った。

(1) 平成七年九月、南海放送(愛媛県)のテレビ放送において、数十回、スポット広告を放送した(甲五の一〇、一一)。

(2) 平成七年一〇月、南海放送(愛媛県)、岩手めんこいテレビ(岩手県)、東海テレビ(愛知県)、福井テレビジョン(福井県)、テレビ西日本(福岡県)、大分放送(大分県)、鹿児島読売テレビ(鹿児島県)の各テレビ放送において、少ない局で数回から多い局で数十回、スポット広告を放送した(甲五の一ないし九)。

(3) 平成七年一一月、南海放送(愛媛県)、愛媛放送(愛媛県)、岩手めんこいテレビ(岩手県)、鹿児島読売テレビ(鹿児島県)、テレビ熊本(熊本県)、熊本朝日放送(熊本県)、びわ湖放送(滋賀県)、KBS京都テレビ(京都府)の各テレビ放送において、少ない局で数回から多い局で数十回、スポット広告を放送した(甲六の一ないし一二)。

(4) 平成七年一二月、南海放送(愛媛県)、愛媛放送(愛媛県)、岩手めんこいテレビ(岩手県)、東海テレビ(愛知県)、福井テレビジョン(福井県)、テレビ西日本(福岡県)、大分放送(大分県)、鹿児島読売テレビ(鹿児島県)、テレビ熊本(熊本県)、熊本朝日放送(熊本県)、KBS京都テレビ(京都府)の各テレビ放送において、少ない局で数回から多い局で数十回、スポット広告を放送した(甲七の一ないし一五)。

(5) 平成八年一月、南海放送(愛媛県)、愛媛放送(愛媛県)、岩手めんこいテレビ(岩手県)、東海テレビ(愛知県)、福井テレビジョン放送(福井県)、福岡放送(福岡県)、大分放送(大分県)、大分朝日放送(大分県)、鹿児島読売テレビ(鹿児島県)、南日本放送(鹿児島県)、テレビ熊本(熊本県)、熊本朝日放送(熊本県)、びわ湖放送(滋賀県)、KBS京都テレビ(京都府)、山口放送(山口県)、西日本放送(香川県)、サガテレビ(佐賀県)、秋田朝日放送(秋田県)の各テレビ放送において、少ない局で十数回から多い局で数十回、スポット広告を放送した(甲八の一ないし三五)。

(6) 平成八年二月、南海放送(愛媛県)、愛媛放送(愛媛県)、岩手めんこいテレビ(岩手県)、東海テレビ(愛知県)、福井テレビジョン(福井県)、テレビ西日本(福岡県)、大分放送(大分県)、サガテレビ(佐賀県)、テレビュー山形(山形県)の各テレビ放送において、少ない局で数回から多い局で数十回、スポット広告を放送した(甲九の一ないし一二)。

(五) 平成一〇年四月ころには、テレビ山梨(山梨県)で一週間に一回、原告ほか各社の提供する番組が放送され、その時間帯に原告の広告が放送されている(甲二〇、二一、弁論の全趣旨)。

また、原告は、平成一一年には、山梨県内で聴取可能なニッポン放送、文化放送、山梨放送の各ラジオ放送において、スポット広告を放送している(甲二九の一ないし三、甲三六)。

(六) 平成七年五月から平成八年二月にかけて、日経産業新聞(六回)、日刊工業新聞、日刊木材新聞、日本工業新聞、日刊不動産経済通信、旬刊新聞「ザ・リフォーム」(二回)、住宅新報(二回)、週刊住宅、週刊ダイヤモンド、財界、ビルダーといった新聞や雑誌において、原告代表者【A】の紹介記事ないしインタビュー記事が掲載され、その記事には原告社名やその業務内容等も記載されている(甲二の六、八、九、一〇、一三、三一ないし三三、六〇、六一、七三、七七、八〇、九〇、九五、九六、一〇二、一二六)。

(七) 原告は、送付書、連絡書、事務用便箋、封筒等の業務上使用する書類に原告社名及び原告標章を印刷したものを使用しており、また、会社案内その他の種々のパンフレットに原告社名及び原告標章を印刷している(甲一五ないし一九、二二ないし二五の各一、二)

2  右1認定の事実に基づいて、原告社名及び原告標章が原告の営業表示として著名又は被告が営業を行っている山梨県内で広く知られているかどうかについて判断する。

まず、原告標章については、右1(三)のとおり、これを使用した原告の広告が新聞、雑誌に掲載されたことはあるものの、その回数はわずかであり、他には、右1(七)のとおり、原告の事務書類やパンフレットに使用されていることが認められるのみであるから、いまだ、原告標章が原告の営業表示として著名であるとは認められず、山梨県内で広く知られているとも認められない。 次に、原告社名について検討するに、右1(二)(六)のとおり、平成七年五月から平成八年二月にかけて原告や原告代表者【A】に関する記事が新聞や雑誌に掲載されており、これらの記事は、原告社名や原告の業務内容等について一定の宣伝効果を有するものと認められ、その掲載回数も総計すると相当な回数になること、右1(三)のとおり、原告の広告が新聞、雑誌に掲載されたことがあること、右1(四)のとおり、原告は平成七年九月から平成八年二月にかけて各地のテレビ放送でスポット広告をしており、その放送回数は総計すると相当な回数になること、右1(五)のとおり、山梨県内で週一回放送されている番組の中で原告の広告が放送されており、ラジオ放送によるスポット広告も行われていることなど右1認定の事実からすると、原告社名は、原告の営業表示として、全国的にある程度知られているものと認められる。

しかし、右1(二)(六)の記事が掲載された新聞や雑誌の多くは、いわゆる業界新聞又は業界誌であって、必ずしも一般消費者が講読するようなものではない。もっとも、その中には、日本経済新聞や毎日新聞といった広い読者層を有する新聞もあるが、そのような新聞等に掲載された記事の数は決して多くない。また、右1(三)の原告の広告の回数はわずかである上、右1(四)のスポット広告が放送された地域は特定の地方に偏っており、山梨県内において視聴できるテレビ放送は含まれていない。右1(五)の山梨県内で視聴できるテレビ放送やラジオ放送における広告は、最近になって始められたものである。さらに、原告のフランチャイズ加盟店となった工務店数や住宅の施工販売の戸数など原告の営業規模、範囲、実績を認めるべき証拠はなく、弁論の全趣旨によると、山梨県内には、原告のフランチャイズ加盟店となった工務店はなく、そのため、原告の企画する住宅が同県内において施工販売されたことはなく、その住宅の施工販売に関する実際の営業活動が行われたこともないと認められる。以上の事実に照らすと、原告社名が原告の営業表示として著名であるとまでは認められず、原告の営業表示として山梨県内で広く知られているとも認められない。

3  以上認定判断したとおり、原告社名及び原告標章は、原告の営業表示として著名であるとも山梨県内で広く知られているとも認められないから、その余の点につき判断するまでもなく、被告による被告商号及び被告標章の使用が不正競争防止法二条一項一号又は二号の不正競争行為に当たるとは認められない。

二  争点二(商標権侵害の有無)について

1  前記第二の一2、3のとおり、原告は、本件商標権を有しており、他方、被告は、一般消費者に対し、被告が企画した住宅を受注販売し、その際、被告が建物を設計し、施工又は施工の管理を行い、建築には被告の建築資材を使用するという営業を行っている。また、前記第二の一3の事実に証拠(甲三の一ないし四、甲四の一ないし四、甲三二ないし三四、甲三五の一、二、乙一の一)と弁論の全趣旨を総合すると、被告は、右営業活動において、被告が受注販売する住宅のパンフレットやチラシに被告商号及び被告標章を付して頒布していること、被告の住宅展示場等において被告商号及び被告標章を付した看板、旗を掲げていること、被告商号及び被告標章を付した被告の営業に関する新聞広告を掲載していること、以上の事実が認められる。

右認定の事実によると、被告は、右営業に係る役務(以下「被告役務」という。)に関する広告又は取引書類に被告商号及び被告標章を付して展示し、又は頒布しているといえるから、被告は、被告役務について被告商号及び被告標章を使用しているものと認められるが、その他の役務又は商品について被告が被告商号及び被告標章を使用しているとの主張立証はない。

2  そこで、まず、被告役務が本件商標権1ないし3の各指定商品又は本件商標権4の指定役務に類似する役務であるかどうかについて判断する。

商品に役務が類似するかどうかは、当該商品と当該役務に同一又は類似の商標を使用した場合に、当該役務が当該商品を製造又は販売する事業者の提供に係る役務であると誤認されるおそれがあるかどうかという観点から判断されるべきところ、本件商標権1ないし3の各指定商品は、別紙商標目録記載1ないし3のとおりであり、これらの各指定商品の内容と被告役務の内容とを対比して見ると、右各指定商品の製造、販売と自ら企画した住宅を受注販売し、その際、建物を設計し、施工又は施工の管理を行い、建築には被告の建築資材を使用するという役務(被告役務)の提供が通常同一の事業者によって行われるとはいえず、また、右各指定商品は、主として建築等の業者を需要者とするものが多いから、一般消費者を需要者とする被告役務と需要者の範囲が必ずしも一致するとはいえず、さらに、右各指定商品が販売される店舗等の取引場所と被告役務の提供場所が一致するともいえないことからすると、被告役務に本件商標権1ないし3の各登録商標に同一又は類似する商標を使用しても、右各指定商品を製造、販売する事業者の提供に係る役務と誤認されるおそれがあるとは認められない。したがって、被告役務は、本件商標権1ないし3の各指定商品に類似する役務であるとは認められない。

また、役務相互が類似するかどうかは、それらの役務に同一又は類似の商標を使用した場合に、それらの役務が同一の事業者の提供に係る役務と誤認されるおそれがあるかどうかという観点から判断されるべきところ、本件商標権4の指定役務は、別紙商標目録記載4のとおりであり、右指定役務の内容と被告役務の内容とを対比して見ると、両者の内容は全く異なり、右指定役務の提供と自ら企画した住宅を注文販売し、その際、建物を設計し、施工又は施工の管理を行い、建築には被告の建築資材を使用するという役務(被告役務)の提供が通常同一の事業者によって行われるとはいえず、また、右指定役務の需要者は主として建築等の業者であるから、一般消費者を需要者とする被告役務と需要者の範囲が一致するともいえず、さらに、右指定役務の提供場所と被告役務の提供場所が一致するともいえないことからすると、被告役務に本件商標権4の登録商標に同一又は類似する商標を使用しても、右指定役務を提供する事業者の提供に係る役務と誤認されるおそれがあるとは認められない。したがって、被告役務は、本件商標権4の指定役務に類似する役務であるとは認められない。

3  右2で認定判断したとおり、被告役務は、本件商標権1ないし3の各指定商品又は本件商標権4の指定役務に類似する役務であるとは認められないから、その余の点につき判断するまでもなく、被告が被告役務について被告商号及び被告標章を使用しても本件商標権の侵害になるとは認められない。

三  以上の次第で、被告による被告商号及び被告標章の使用が不正競争防止法二条一項一号又は二号の不正競争行為に当たり又は本件商標権の侵害となることを前提とする原告の本訴請求はいずれも理由がない。

(裁判長裁判官 森義之 裁判官 榎戸道也 裁判官 杜下弘記)

<以下省略>

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